あるところに、空中ぶらんこに住む夫婦がいた。
たかいたかい場所にあるそれぞれのぶらんこに乗って、ゆらゆら揺れながら暮らしていた。
どうしてかはわからない。ふたりはとにかくそういう運命だった。
あるときふたりは手を握ろうとした。
ぶらんこに勢いをつけて、タイミングよく手を握りあう。力強く、しっかりと。
妻がいう。
「わたしたち、ずっと手をつなぎつづけることはできませんのね」
夫はこたえる。
「ぶらんこ乗りだからな。ずっと揺れつづけるのが運命さ。
けれどどうだい、こうしてほんの少しでも、おたがいに命がけで手をつなげるのは、ほかでもない、素敵なこととおもうんだよ」
いしいしんじの『ぶらんこ乗り』
ちなみに上の話は作中で弟が書いた「おはなし」として登場する。
あちら側とこちら側を揺れ動く「私」の弟。
ずっとこちら側にとどまっていられない絶望と、かならずこちら側へ戻ってくるという希望をあわせ持っている世界一のぶらんこ乗り。
だから弟はきっと帰ってくるのだ。ぶらんこがしかるべき引力にのって、あちら側から戻ってくるように。
またしても電車内で読んでしまい、涙を抑えるのに苦労したのであった。

