
恩田陸『「恐怖の報酬」日記―酩酊混乱紀行』
これは飛行機嫌いの恩田さんが泣きそうになりながらも憧れの地、イギリス・アイルランドを旅する紀行エッセイである。
副題に「混乱酩酊紀行」とある。混乱しつつも旅行中はとにかくたくさんお酒を飲んでいて、それがまた素敵だ。
前にも書いたと思うが、私は恩田陸さんがとても好きである。
おこがましいけれど、彼女とはとても近しい感じがするのだ。
お酒が好きで、飛行機が嫌いで、遺跡が好きで、物語が大好きで、そういう基本的なところが似ていると思うし、しかもその好き嫌いの理由まで似ている。
彼女のすべてのものに対する思考の流れ、というか考え方が、私にはとてもしっくりくるのだ。こういう人はなかなかいない。
今回のエッセイも、だからとても楽しく読んだ。
恩田さんは、なにしろ飛行機が怖い。
なので本の1/4が過ぎてもまだ搭乗せず、現実逃避の文章が続く。
ようやく乗ったと思っても、乗り換えや帰りの移動が近づくとまたグズグズと現実逃避の文章が始まる。
旅に持っていく本を検討し、『のだめカンタービレ』の千秋真一(←やっぱり飛行機嫌い)に思いをはせ、歴史上の偉人で誰が探偵に向いているか話し合い、パソコンで文章を書くことについて考え、もういろいろと大変なのだ。
けれどそんなときこそ彼女の思考は冴え渡り、おそろしく的確な文章が紡ぎだされる
。
「恐怖は人にモノを考えさえる」
「現実において肉体が恐怖に晒されていると、人は理性と秩序を、賢者と魔法を切に求めるものだ」
「だから『指輪物語』は、第二次世界大戦の時代生まれたのだ」
飛行機にたいする恐怖から、よくまあここまで飛躍できるものだと思うけれど、的確な言葉を使ってものごとの輪郭をハッキリさせると、それなりに落ち着くのだ、と思う。少なくとも私はそうである。
だから私も飛行機に乗っているときは、どうでも良いことばかり考えている。
けれど恩田さんほど的確な言葉は出てこないので、結局最後まで、怖いばっかりなのである。




