
■■蛇を踏む■■
川上弘美さんの『蛇を踏む』を読む。
文春文庫から出版されていて、「蛇を踏む」「消える」「惜夜記」の3作品が収録されている。
芥川賞を受賞したから、というわけではないけれど、個人的には「蛇を踏む」が一番よかった。
ヒワ子という女性が、公園で蛇を踏んでしまったところから、この物語は始まる。
「踏まれてしまったからには仕方ありませんね」
そういって、蛇はヒワ子の家に住みついてしまう。
蛇は、ヒワ子の「母」だと名乗り、執拗にヒワ子を蛇の世界へ誘うようになる。
ヒワ子はそんな蛇の世界に魅力を感じているが、彼女のなかの何かが蛇の世界へ行くのを押しとどめている。
あやうい均衡を保ちつつ、ヒワ子と蛇の生活は続くが――。
とまあこういった話で、読んでいるうちにどんどん引き込まれてしまったのだ。
川上弘美さんの物語には、今まで読んだことのない独特の設定とシステムがある。
それらは、この現実世界からすると、とうていありえないコトなのだけれど、不思議と説得力がある。
きっと川上さんの世界と、現実の世界はぎりぎりのところでつながっていて、そのバランスがとてもうまくとれているのだろう。
だからこそ、物語にいきいきした空気が宿るのだ。
ただ、「消える」と「惜夜記」は、話にうまくついていけなかった。川上さんの世界の方が少し大きくなりすぎてしまったような感があった。
「蛇を踏む」は、芥川賞作品としては、珍しいタイプだ。
けれど、現実と物語の抜群のバランスのよさは、賞をもらうのに十分だったのかもしれない。

