
■■博士の愛した数式■■
いつまでも読んでいたい物語がある。
解き明かすべき謎はなく、たいした事件が起こるわけでもなく、ただ淡々と毎日が過ぎていくだけなのに、登場人物たちの過ごす時間と空気はまぶしく、そしていとおしい。
『博士の愛した数式』もそんな物語だった。
小さな手で世界を支える数字たちを愛する数学者だった博士は1975年、事故に遭う。以来80分しか記憶を保てなくなった博士の記憶はは1975年以前と80分前までのことだけになってしまう。
だから博士は体中にメモを貼り付けて毎日を過ごしている。
胸の一番目立つところにあるメモにはこう書かれている。
「ぼくは記憶が80分しか保てない」
その博士のもとへ派遣されてきた家政婦の「私」と息子のルート。
「ルート」という名前は博士がつけた。ルートの頭が√記号のように平らだからだ。
「おぉ、なかなかこれは、賢い心が詰まっていそうだ」
「√を使えば、無限の数字にも、目に見えない数字にも、ちゃんとした身分を与えることができる」
ルートの頭をくしゃくしゃなでながら、そう言って博士は微笑む。
80分しか記憶のテープを持たない博士は、毎日初対面の挨拶を繰り返す。それでも「私」とルートは細やかな気配りと深い愛情をもって博士と接する。
そんな彼らの時間はとても穏やかであたたかい。
時々小さなすれ違いはあるものの、相手を思う心は強く、まっすぐで、揺るぎない。
記憶には残らなくとも、決して失われることのないもの、それは彼らの時間の中に確かに存在していた。
***
けれど物語には(物語だけではないかもしれないが)、かならず終わりがやって来る。
正確な時を刻んでいた博士の80分テープはやがて壊れてしまう。
博士の現在、そして「私」とルートを記憶するための大切なテープは永遠に失われてしまった。
それでも「私」とルートは博士に会いに行く。
「私」は博士の数学講義にうっとりと耳を傾け、ルートは博士にもらったグローブを持参してキャッチボールをする。
博士はテープが機能していた最後の夜に二人にもらった江夏の野球カードを首からぶら下げている。
楽しかった毎日は失われてしまったけれど、そこにはまだあたたかな愛情が確かに存在している。
それが「私」を、ルートを、そしておそらくは博士を、支えている。
博士の愛した数字たちがひっそりと世界を支えているように。


すごく好きになりました。(数学は苦手ですが・・・)
これを読んだ後「ミーナの行進」という本を買いました。
まだ未読なのですが、それも楽しみです。
あと、富士丸くんの飼い主さんのエッセイを読み始めました。
人気ブログの書籍化、最近多いですよね!
ハルさん本が出たら絶対に買いますよ〜♪
私はこの本を読んで、数学がすごく好きになり(←問題とか出されると困りますが)、小川洋子さんと数学者の藤原さんの出版した新書まで購入して読み漁ってしまいました。
富士丸くんの飼い主さんのエッセイ、私も書店で見ました。すごいですよね、なんかこう本!という感じがして。
ウチなんかもう全然。この前の雑誌が最初で最後の奇跡です!
この本は読んでみたいと思っている1冊です。
数学は嫌いなんですよ。
だけど、ずっと数字と関わる仕事をしている自分もいたり。
まだ読んではないけれど
Mさんの文章を読んで、今日の仕事帰りに買って帰ろうと思いました。
ところで、やっと伊坂幸太郎の「アヒルと鴨とコインロッカー」を読みました。
最初は描写が辛くていつものペースで読めないぐらいでしたが
最後まで読み切ったときに何故か「重力ピエロ」を読んだときと同じ感覚になりました。
この感覚こそが伊坂ワールドなのかも・・・なんて納得してました。
お返事、たいへん遅くなってすみません。
私がミステリーを読み始めたのは実はわりと最近のことです。
昔はぜんぜん読まなくって、今になってミステリの基本、みたいな本を読んでたりします。
というわけなので、何かオススメのミステリがあれば、ぜひ教えてください。
「博士の愛した数式」の感想も、また教えていただければ嬉しいです!